建築家の仕事と思想、
そして讃岐緑想にかける想い。
讃岐に創る堀部建築。
〈 建築家のことば 〉
建築には、ビルディングとアーキテクチャー、2つの役割があります。前者は人の生活や財産を守るための建築。もう1つは記憶を継承するための建築。人の思い出や記憶を、次の世代につなげることも建築の大切な役割だと考えています。そのことは、讃岐、とりわけ仁尾の町を歩いてみるとよく分かります。あえて町に鉄道を通していなかったり四国八十八箇所のお寺の選定を断ったりなどして、仁尾には昔ながらの景色や空間が今も多く残っています。また、気候も食べ物もとても豊かで、地元の人もあくせくしていない。穏やかで豊かな場所であるからこそ、何も足さなくてもよい。そういう土地だからこそ成り立つ家というのが、やはりあると思います。讃岐緑想を考えるにあたり、この地の宝物である風土と等身大の暮らしを受けとめる住宅をつくりたいとまず思いました。
讃岐緑想の建物としての佇まいは、まるでずっと昔からこの場所に建ち続けてきたような伝統的なものにしています。たとえば、材木一つとっても地域によってその材質や使い方は異なります。今回は、焼杉や菊間瓦、越屋根、下屋といった伝統のフォルムや素材を取り入れることでそれらを表現しています。一方で建物の内部については、現代の暮らしに適合する性能を、現代ならではの技術で実現することを意識しました。その1つとして挙げられるのが、断熱・気密性能を高めること。高気密・高断熱というのは、本質的には自然の力を無理なく利用するための知恵です。昔の日本の家も、ずっと高断熱などの工夫はやってきているものになります。さらに、基本寸法に四国間を採用することでゆったりとした設計にしている点も特徴です。ただし動線はシンプルかつコンパクトに。プランニングの豊かさも建物の魅力の1つです。
建築は、体感こそすべてです。また、短時間で分かることより長い時間をかけて分かることこそに価値を見出しており、そこに住宅の真価があると考えています。土地の四季や天候、自然に寄り添う家。その家をメンテナンスして手をかけながら維持していくこと。仁尾町に佇む讃岐緑想は、泊まることでその真価を少なからず感じていただけるようになっています。ぜひ、ゆっくりと過ごしながら、この住宅の魅力を感じていただきたいと思います。
PROFILE
- 1967年
- 神奈川県横浜市生まれ
- 1990年
- 筑波大学芸術専門学群環境デザインコース卒業
- 1991−1994年
- 益子アトリエにて益子義弘に師事
- 1994年
- 堀部安嗣建築設計事務所を設立
- 2002年
- 第18回吉岡賞を《牛久のギャラリー》で受賞
- 2007年−
- 京都造形芸術大学大学院教授
- 2016年
- 日本建築学会賞(作品)を《竹林寺納骨堂》で受賞
EXHIBITION
- 2017年
- 「日本、家の列島―フランス人建築家が驚くニッポンの住宅デザイン―」
パナソニック 汐留ミュージアム 東京 - 2005年
- 「堀部安嗣展 建築の居場所」
ギャラリー・間 東京 - 2005年
- 「静寂の音 Sound of Silence」出版記念展
南洋堂書店 東京 - 2005年
- galleria abitare開廊記念展
ガレリア・アビターレ 東京 - 2005年
- 「繊細」日本建築展
オスナブルック・ドイツおよびイスタンブール・トルコ - 2004年
- 「memento mori」
法然院 京都 - 2003年
- 「繊細」日本建築展/共同展
メキシコ国立建築博物館 メキシコ
ARCHITECTURE
guntû(ガンツウ)
2017
竹林寺納骨堂
2013 高知
蓼科の家
2010 長野
イヴェール ボスケ
2012 石川
正光寺客殿・庫裏
2010 栃木
鎌倉山集会所
2015 神奈川
華林荘
2010
鹿嶋の研修所
2010 茨城